第6話 スパークプラグの点検と交換

圧縮された混合気に火花を飛ばして爆発させるのがスパークプラグの役目。
爆発した瞬間には50気圧、2500℃もの高温高圧にさらされ、
次の瞬間には新しい混合気で急激に冷やされるという状態を、
1分間に何千回と繰り返しています。

プラグメーカーが想定する寿命は、
普通乗用車で1万5000〜2万km、
単位排気量あたりのパワーの大きい軽自動車は7000〜1万km、
4輪に比べて常用回転域が圧倒的に高く、圧縮比も高いバイクは、
走行3000〜5000kmが交換の目安とされています。

もちろんそれ以上使えるケースもままありますが、
火花が微妙に弱くなっているとか、燃焼室のコンディションが悪くなったときに失火するとか、
特に不具合を感じなくても、少なくとも100%の働きはできていないと考えていいでしょう。

一部の4輪車では、プラチナプラグを採用し10万kmの保証をしていますが、
これはあくまでも自動車メーカー側の保証で、プラグメーカー側はプラチナプラグでも
1万5000〜2万kmでの交換を推奨しています。


プラグ交換を甘く見てはいけません

このように、エンジンオイルと同等のサイクルでメンテナンスを必要とする部分ですから、
自分で点検や交換をしている人も多いと思います。

重要な役割を持っているとはいえ、作業の形態はボルトの脱着と同じですから、
ルーティンメンテナンスの中では比較的簡単な部類に入ります。

ただし、ネジ込まれている場所がシリンダーヘッドだということは肝に銘じてください。
万が一プラグを斜めにネジ込んだりして、シリンダーヘッド側のネジ山を痛めると、
シリンダーヘッドを外してネジ山を修正、あるいは再生することになりますから、
確実に2〜3万円は飛んでいきます。
シリンダーヘッドはアルミ、プラグはスチール。
条件が揃えば簡単にシリンダーヘッド側のネジ山が潰れますから、十分注意してください。


レプリカ系バイクはちょっと面倒

作業にあたって、単気筒や2気筒車、4気筒でもエンジンが剥き出しのネイキッド系はさほど問題ありませんが、
レプリカに多い前傾シリンダーエンジンやV型エンジン搭載車は、
ラジエターとのクリアランスが狭いため、満足に手が入らず、思わぬ苦労をすることがあります。
こういったモデルの場合、プラグを斜めにネジ込む可能性も高くなるので、十分注意しましょう。

4輪の場合、直列エンジンならば縦置きでも横置きでもさほど問題ありませんが、
横置きのV型エンジンのリアバンク側は、DIYレベルでのプラグ交換は事実上不可能です。
また、シリンダーヘッドの上にインテークダクトやインタークーラーがあるクルマは、
場合によってはそれを取り外す必要も出てくるので、愛車をよく確認して下さい。

まずはプラグコードを取り外しますが、このとき必ずプラグキャップを持って引っ張って下さい。
最近はコードとキャップが一体型になったモデルがほとんどで、
昔のようにキャップからコードが抜けちゃった、ということはなくなりましたが、
無理な力がかかると内部で断線することがあります。

内部で微妙に断線して不調を招いたような場合、原因の特定に時間がかかることがありますから、
そういった状態を招く可能性がある行為は極力避けましょう。








走行後に脱着する場合、エンジンが何とか触
れるぐらいに冷えても、プラグは死ぬほど熱い
ことがあるので、ヤケドには十分注意しましょう。









構造上プラグホールの深いDOHCエンジンは、中にゴミや砂粒が溜まっていることがあり、
そのままプラグを外すとゴミが燃焼室内に入ってしまいますから、
エアガンでゴミを吹き飛ばしておきます。
エアガンが使えない場合は、適当なゴムチューブを使って息を強く吹きかけても何とかなります。







ゼファーχの空冷4気筒エンジン。冷却のた
めにプラグの回りまで空気が回るため、必然
的に雨やハネ上げがが入り込んで、プラグの
回りにゴミや砂粒が溜まります。








次にプラグの頭にプラグレンチをしっかりと被せ、左に回してプラグを取り外します。
プラグ自体のためには、しっかりとした市販のプラグレンチを使った方がいいのですが、
作業スペースの限られたレプリカモデルやV型エンジンモデルでは、
車載工具のプラグレンチの方が使いやすい、ということが少なくありません。






車載のプラグレンチは、長さや太さが車種専
用に設計されているため、総じて使いやすく
なっています。ただし、工具の質は相変わら
ずですから、プラグを痛めないようにしっかり
差し込んで下さい。








プラグが外れたら、レンチごと抜き出して先端をチェックします。


両電極の角が落ちていたらそろそろ交換

外したプラグは、真ん中に突き出している中心電極と、横からL字型に出ている外側電極
摩耗具合をチェックします。
本来は、中心電極は円柱状で、外側電極は四角形で、ともに角が立っていますが、
その角が落ちてツルンとしていたらそろそろ交換時期。










これは4輪のプラグですが、右が新品で左が
約5万km走ったプラグです。中心電極が摩耗
して短くなり、外側電極も薄く摩耗しているのが
一目瞭然です。クルマだとこれでも走ってしま
いますが、バイクだったら満足に走れないでし
ょう。











角が落ちた上に、中心電極が短くなり、外側電極が先に行くほど薄く摩耗していたら寿命です。

よく中心電極と外側電極の隙間、いわゆるプラグギャップが広がっていたら、
外側電極を曲げて調整する、と言われますが、
角が落ちた時点ですでにオイシイ時期は終わっていますから、
交換を考えた方が賢明だと思います。


”焼け”の一般論はあまりアテになりません

ここで少しプラグの焼けについて触れておきましょう。
見るのは中心電極の根本にある白い絶縁体と呼ばれる部分です。

一般に絶縁体がキツネ色だとベストで、白いと焼けすぎ、黒いとカブリ気味と言われますが、
皆さんどうでしょう、自分のバイクでキツネ色に焼けたプラグを見たことがありますか?
一般路をメインに走っていると、乾いた黒から良くて褐色。
2ストロークエンジンだと、全体に湿気た感じの褐色、というのがほとんどではないでしょうか。
実はそれで正常なんです。

そもそも、この「キツネ色がベスト」というのは有鉛ガソリン時代の名残で、
現在の無鉛ガソリンでは、白あるいは灰色がベストな焼けとされています。

しかしその白や灰色の焼けも、高速道路をしばらく全開で走った後ぐらいにしか出ません。
原則として全開全開のロードレースでも、プラグやピストンヘッドの正確な焼けを見るためには、
チェッカーフラッグを受けた後に、そのコースのいちばん長いストレートの終わりで、
全開状態からアクセルオフと同時にキルスイッチでエンジンを止めないといけないぐらいですから、
一般路メインの走行でまともな焼けが出なくて当然なのです。

プラグの番手変更は、キャブセッティングに例えるとメインジェットを数10番変えるぐらいに匹敵しますから、
始動性が悪くて困る、モコモコいって加速しない、といった極端な例を除いては、
スタンダードのままにしておいた方がいいでしょう。

ただし4輪に関しては、エミッションの関係で
適正な熱価よりも1段焼け型(番手が低い)のプラグを
純正装着しているケースが間々あります。
体感的にはほとんど変わりませんが、「結構飛ばす」という方は、
プラグ交換時に熱価を1段上げるといいでしょう。


4輪がそうなのですが、キャブに比べて燃料の制御がきめ細かいインジェクション車は、
一般路メインの走行でも理想に近い白い焼けになります。
今後バイクにもインジェクションが普及すると、「プラグの焼けがうんぬん」というのは、
過去の話になってしまうかもしれませんね。




締めすぎは”百害あって一理なし”

さて、前にも触れたように、プラグ交換で最も注意しなければいけないのが取り付けです。

外したプラグを再使用する場合と、新品に交換する場合で少し違いますが、
まずネジ山の汚れをブラシやウエスで落としてから、
取り付けミスを防ぎ、次回の取り外しを楽にするためにグリスを少量塗っておきます。








ネジ山の汚れ落としや電極回りのカーボン落としには、
ナイロン製のブラシを使いましょう。ワイヤーブラシは
絶縁体を傷つけます。








ここで塗るグリスは、耐熱性、耐荷性の高い製品がオススメ。
私はロックタイトのアンチシーズとワコーズのスレッドコンパウンドを愛用しています。
なければチェーングリスが比較的それに近い性質を持っています。








上がスレッドコンパウンドで、下がアンチシーズ。
プラグの他、エキパイを止めているナットやホイ
ールのアクスルナットなど、高温にさらされる部
分や強いトルクで締めるボルト、ナットに塗って
おくと、カジリや焼き付きを防いでくれます。








次にプラグレンチにプラグを差し込み、プラグ穴にそっと差し込みます。
このときプラグがレンチからおちたり、レンチごと落としたりすると、
外側電極が曲がってプラグギャップが狂ってしまうので注意して下さい。

プラグ穴にだいたい垂直に入っていることを確認したら、
工具を使わずに、プラグレンチの頭を指先でつまんで締めていきます。
これは、もし斜めにネジ込んでしまった場合、指先だとすぐに重くなって回せなくなりますが、
最初からラチェットハンドルやスパナをかけて回していると、
重くなってもある程度まで回せてしまうので、
気づいたときにはネジ山を痛めていた、ということになるためです。

ネジ山のゴミを落としてグリスを塗るのは、正常に入って行っているときと、
何か異常があった時の、重さの差を出す意味もあります。








「止まるところまで手で締める」。
プラグを取り付けるときの絶対の
約束です。








ガスケット(ワッシャー)が接地して、手で回すことができなくなったら、
そこからレンチをかけて1/4〜1/2回転締め込んで作業完了。
再使用の場合はすでにガスケットが潰れているので、1/5〜1/4回転締めれば十分です。
思ったより強く締めないので、「こんなもんでいいの?」と思うかもしれませんが、
これが適正トルクです。

「シリンダーヘッドはアルミ、プラグはスチール」ということを忘れないで下さい。


高性能プラグはパワーアップするか?

NGKのVプラグやVXプラグ、デンソーのZu、スプリットファイア、マルチスパークプラグ、
そして今話題のイリジウムプラグなど、いわゆる高性能プラグと呼ばれる製品が沢山出ています。

スプリットファイアとマルチスパークプラグはちょっと違いますが、
VXプラグやZuプラグ、イリジウムプラグは、直径が0.4〜0.7mmという細い中心電極が採用されており、
ものによっては外側電極も先端にいくほど細くなったテーパー型を採用しています。











高性能プラグとして長い歴史を持つNGKのVXプラグ。
直径0.8mmのプラチナ製中心電極と、テーパーカット
された外側電極を持つ。寿命は標準プラグと同じ3000
〜5000kmだ。











電極を細くすると、火花を飛ばすために必要とする要求電圧が低くなり、
また、電極自体に火花が吸収されてしまう消炎作用も減るため、
結果的に火花が強くなります。
しかし、通常のニッケル合金ではすぐに摩耗してしまうため、
減りにくいゴールドパラジウムやプラチナ、イリジウムといった
特殊な合金を使っているわけです。

「高性能プラグに代えてパワーが上がった」という話も少なからず聞きますが、
そもそもパワーアップさせるためにはどうしたらいいでしょう。
排気量を拡大する
カムシャフトや吸排気系を変えて沢山の混合気が吸い込めるようにする
圧縮比を上げて爆発力を高める

といったところが常套手段で、
要するに、ノーマルよりも多くのガソリンを燃やすか、あるいはノーマルより多く圧縮して、
爆発エネルギーを高めないとパワーは上がらないのです。

しかし、プラグを変えてもこのような働きはしません。
火花が強くなることで燃焼効率が上がり、エンジンの能力を100%引き出してくれるかもしれませんが、
101%になることはないわけです。

それでは、なぜ高性能プラグに交換すると走りが変わるのかというと、ポイントは低中回転域です。

例えば、低回転域からガバッとアクセルを開けたとき、
一時的に混合気が濃くなって、ノーマルプラグではときどき失火してしまうことがあります。
そこで着火性能のいい高性能プラグを使うと、悪条件下でも確実に火花を飛ばしてくれますから、
今までなら一瞬ボッボッボッと吹き詰まっていたのが、スムーズにビューッと吹け上がるようになり、
結果的に速くなった感じがしますし、事実加速が良くなるわけです。