第2話 正しいオイルの選び方・クルマ編

オイルの選び方の前に、まずオイル自体の説明をしておきましょう。

オイルは、基本となるベースオイルにいろいろな添加剤を加えて製品になっています。
その添加剤の配合割合は、全体量の15%から多いものでは30%を超える製品もあり、
添加剤なしでオイルは成り立たないといっても過言ではありません。
以下に代表的な7種類の添加剤をリストアップしましたから、参考にして下さい。
当サイトのバイク編用の解説も兼ねているため、
2サイクルオイル用の添加剤もリストアップされているのでご了承下さい。

添加剤 効能 4サイクル 2サイクル
耐摩耗剤 摩擦力を低減する添加剤。成分は亜鉛とリンの化合物で、熱で金属表面に保護膜を形成し、摩擦で剥がれ落ち、また形成する、というプロセスを繰り返す。剥がれ落ちた保護膜は汚れの原因になる。 ×
清浄剤 高温下で劣化した添加剤や、固まってスラッジやワニスになる前の酸化金属を、中和してオイルの中に溶かし込む働きをする。主にカルシウム系のアルカリ性金属石けんが使われる。
分散剤 主に低温時に発生するスラッジやカーボンをオイルの中に分散させ、特定の場所に沈殿するのを防ぐための添加剤。こはく酸イミドやこはく酸エステルという物質がよく使われている。
粘度指数向上剤 油溶性の高分子ポリマーで、高温時にもオイルの粘度を維持させるための添加剤。マルチグレード化には欠かせないが、せん断力に弱いため、この性能に頼りすぎているオイルはバイク用に向かない。 ×
流動点降下剤 低温時にオイルが固まるのを抑えて、低温時のエンジン始動性や油圧を確保するための添加剤。塩素化パラフィンと、ナフタレンまたはフェノールとの化合物がよく使われている。
高温酸化防止剤 高温時に、熱の影響でベースオイルが酸化しようとするのを、代わりに酸化することでベースオイルを守るための添加剤。主にアミン系の物質が使われる。耐摩耗剤も同じような酸化防止作用を持つ。
減煙剤 ベースオイルの燃焼性を高めて排気煙を減少させる、近年の2サイクルオイルにとっては必須の添加剤。化学合成油の一種であるポリブデンがよく使われている。添加量は10%前後。 ×

○:使われる △:使う場合がある ×:使われない


添加剤





右から化学合成ベースオイル、流動点降下剤、粘度指数向上剤、耐摩耗剤
清浄剤、分散剤、高温酸化防止剤。4サイクルエンジン用オイルの基本的な
レシピです。各添加剤はどこでも使われているありふれたものですが、その
配合割合は極秘中の極秘です。






オイルの開発にはものすごい時間とお金がかかっています

これ以外にも、性能とは無関係な香料や染料など、様々な添加剤が配合されていますが、
実はこれら添加剤はそのほとんどがアメリカで作られています。

私も細かいシェアまでは知りませんが、
アメリカには3つの大きな添加剤メーカーがあって、
この3社の供給する添加剤が世界中のかなりのメーカーのオイルに使われているということです。


着色料

2つとも同じオイルですが、左はブルー系の、
右はレッド系の染料が混ぜられています。
オイルに色を付けるのは、そもそもは2サイ
クル用と4サイクル用を間違えないようにす
るためだったそうです。





だからといって安直に混ぜているわけではなく、
メジャー級のしっかりしたオイルメーカーでは、
自社の持つベースオイルとの相性や開発するオイルの方向性、コストなどを考えながら、
提供される膨大な数の添加剤の組み合わせを、
極端な話ひとつひとつテストして、「これだっ!」というレシピを見つけるわけです。
添加剤の種類だけでなくその配合量まで考えれば、
組み合わせは無限に近い数になりますから、大変な労力です。



プライベートブランドオイルの実態

その一方で、添加剤メーカーからは性能やコスト別に、
すでに混ぜ合わされた添加剤セットも売り出されており、
手持ちのベースオイルにそのセットを混合するだけで、
最高峰のAPI・SL級をクリアするオイルも容易に作ることができます。

チューニングショップやコンストラクター、
大手カー用品店のプライベートブランドオイルは、大半がこのタイプだと考えていいでしょう。
現実問題として、ショップやストアレベルでベースオイルから開発するのは、
設備、技術、コストの面で不可能ですから、
石油メーカーに依頼し、アドバイスを受けながらベースオイルや添加剤を決め、
できあがったオイルを自社のチューニングエンジンなどでテストする、
というのが基本的な流れです。

石油メーカーがすでに市販している、あるいは開発を終えた市販前のオイルを、
部分的にイジったりそのままパッケージだけ変えて、
プライベートブランドオイルとして市販するケースも少なくありません。

こう書くと、プライベートブランドオイルは品質が低いように思われるかもしれませんが、
決してそんなことはありません。
大手カー用品店のプライベートブランドオイルは「価格の割にいい」という評判で、
私も何度か使ってみましたが特に悪い印象は持っていません。



でも基本的な性能はベースオイルが握っています

このように、添加剤はオイルに欠かせない存在なのですが、
その量は多くても30%前後。
全体の70〜90%はベースオイルが占めているわけですから、
やはりベースオイルの性能がそのオイルの基本性能を決めていると言っていいでしょう。

オイルは、その成分によって鉱物油、化学合成油、半化学合成油の3種類に分類されますが、
これはベースオイルの製造工程による違いです。
その辺の違いや特徴も以下に表にしておきましょう。

成分 製造工程 特徴
鉱物油 原油を蒸留してガソリンや軽油、ナフサなどを抽出した後に残る重油をベースに、精製を重ねて硫黄やベンゼン、パラフィンといった不純物を取り除いたもの。 最も一般的なベースオイルで、安いコストで製造できるのが最大のメリット。性能は原油の産地によって差があるものの、おおむね必要十分なレベルにある。
半化学合成油 部分合成油 鉱物油もしくは水素化精製油に、化学合成油を任意にブレンドすることで、鉱物油や水素化精製油で不足する性能を補ったもの。 鉱物油の低コストと化学合成油の性能を兼ね備えた、コストパフォーマンスに優れるベースオイルとして、現在かなり広い範囲で使われている。
水素化精製油 水素化精製という特殊な技術を使い、鉱物油の成分分子を潤滑に適した性質に組み替えたもの。化学合成油に近い性能を持った鉱物油だ。 それまで化学合成油でしか実現できなかった、低粘度化や超マルチグレード化を、鉱物油ベースで実現できるため、にわかに注目を集めている。
化学合成油 天然ガスやエチレンなどを一度成分ごとに分解し、潤滑剤として有用な成分だけを抽出して組み直したもの。現在、メタンガス系のXHVI、ブテン系のポリアルファオレフィン(PAO)、自然界に存在しない化学物質から生まれたエステルの3種類が使われている。 特に高温時の粘度特性や、せん断安定性、低温流動性について、鉱物油では真似のできないレベルの性能を発揮。分子構造が均一で、かつ潤滑に不要な物質も一切含まれていないため、スラッジの発生や蒸発損失も少ない。

半化学合成油、部分合成油、水素化精製油の分類や呼称は、オイルメーカーによって異なります。

合成基油鉱物基油



左が100%化学合成、右が鉱物系のベースオイルです。
色以外に特別変わったところはありませんが、性質は
全く違います。








オイル選びの実際

そろそろ本題に入りましょう。
オイルを選ぶ基準は、APIやCCMCによるグレード表示、SAE粘度、そして成分の3つがあります。


●グレード

オイルのグレード表示として広く使われているのが、米国石油協会の定めるAPI規格です。
API/SAE

API(もしくはCCMC)のグレード表示とSAEの粘度表示は
一部のレース専用オイルを除いては必ず記載されています





ガソリンエンジン用にはSA、SB、SC、SD、SE、SF、SG、SH、SJ、SLの10ランクあり、
現在一般量販店で売られているのはSF以上となっています。

SH、SJ、SLクラスで、さらにILSACという別の団体が行う省燃費テストをクリアしたオイルは、
それぞれGF-1、GF-2、GF-3というグレード名が併記されます。
ただしSH・GF-1は、SJ・GF-2の登場に伴って廃止されています。

同様にディーゼルエンジン用はCA、CB、CC、CD、CE、CF-4の6ランクあり、現在手に入るのはCC以上。
ディーゼル専用タイプとガソリン/ディーゼル兼用タイプがあり、
兼用タイプはSG/CEというように両方のグレードが併記されています。

最近併記する製品が増えて来たヨーロッパの規格であるCCMCとACEAは、
CCMCのG4はAPIのSG、G5はSH、ACEAのA3はSJ、SLに相当すると考えていいでしょう。

具体的な選び方ですが、今ではほとんどのオイルがSH、SJ、SLに対応しており、
SFやSGに比べて取り立てて高価ということもなくなりました。
どんなシンプルなエンジンでもハイグレードなオイルを入れるに越したことはありませんから、
迷わずSH以上を選びましょう。

実は、SGまでは自己認証制度がとられていて、
メーカーが独自にテストして基準をクリアしていればグレードを表示することができました。
そのため、実際には基準に達していない製品が出回り、
それが問題になってEOLCSという機関が実際にテストを行って承認を出す
SHグレードが制定されたという経緯があります。

そんなオイルはとっくに淘汰されたと思いますが、
自己認証のシステム自体は変わっていないので、SH以上の方が間違いがないわけです。


●粘度

オイル缶に書かれている10W-30とか20W-50といった数字が、
オイルの粘度を表す数字として世界的に使われているSAE表示です。

最初の数字はオイルが冷えているときの粘度で、
主に始動性や暖機性、燃費に影響し、
後ろの数字はオイルが暖まっているときの粘度で、
主に高温時の潤滑性やエンジン保護性、密封性に影響します。

一概には言えませんが、例えば10W-30と20W-50を比較した場合、
10W-30は厳寒期にも始動性がよく、エンジンが軽く回って燃費もいい反面、
真夏のハイパワーエンジンでは粘度が低下して油膜切れを起こすことがあります。
一方の20W-50は、真夏の過酷な状況下でもしっかりと潤滑性を維持してくれる反面、
冬場にはエンジンの回りが重く、始動性や燃費が落ちる傾向にあります。

それほどシビアに考える必要はなく、10W-30か10W-40あたりで1年を通して使うことができますが、
例えば寒冷地に住んでいる、冬場にスキーに出かけるといった場合は、
冬前に5W-30に変えると始動性や燃費が少なからず上がりますし、
逆に、高性能エンジンを積んだスポーツカーや、よくサーキット走行会に行くようなクルマは、
20W-50にすれば安心して攻められます。
粘度表示
省燃費オイルとしてこのところ増えている0W-30の低粘度オイル。
省燃費とはいえ、高温安定性を無視するわけにはいかないので、
ベースオイルには化学合成油が使われています。


また、低粘度オイルの高温域での不安と、高粘度オイルの低温流動性の不足を、
化学合成油にすることでカバーするという方法もあります。

外気温、使用条件、エンジンの種類を考え合わせながら、いろいろ試してみて下さい。
こんなところで悩むのも、オイル交換の楽しみだと思うのですが、皆さんはどうでしょう?


●成分

同じSJグレードなら、成分が違っても性能は同じと考えている方もいると思いますが、
SJの基準を超えた部分では、鉱物油よりも半化学合成油の方が、
半化学合成油よりも100%化学合成油の方がはるかに高い性能を持っています。
部分合成BP
成分の表示は統一がとれておらず、メーカーによっていろいろです。
左はカストロールXF-08の部分合成、右はBP・バービスゼロNAの
100%化学合成の各表示ですが、こういった表示とは別に、缶の横
や裏に日本語で記載しているオイルもあります。





よく「ごく普通のエンジンを積んだファミリーカークラスだと、
化学合成オイルを入れても意味がない」などと言われますが、
化学合成油は、高負荷時の油膜保持性能だけでなく、
低温時の始動性から省燃費性、パーツの耐摩耗性や冷却性、
エンジン内の汚れ防止などなど、鉱物油に対してあらゆる面で勝っており、
あえてデメリットをあげるなら”高価”なだけです。
どんなシンプルなエンジンに入れても損になることはありません。

鉱物油だから何かトラブルが出るというようなことはありませんが、
予算が許すならば、鉱物油よりも半化学合成油か化学合成油をおすすめします。

今のSL規格は、高品質な鉱物油なら十分クリアできるレベルにありますが、
この先エンジンの進化に伴ってAPIの規格が上がっていくと、
そのうち化学合成油でしかクリアできなくなるかもしれません。