第6話 インプレッションライダー

今回は、バイク雑誌に登場するメンバーの中では花形ともいえる、
インプレッションライダーの話をしましょう。


今から思うとすごいライダーが出てました

インプレッションライダーというのは、バイクに乗って、あーだこーだ能書きをタレるライダーのことです。
昔は、乗るだけで原稿は一切書かないライダーが多かったのですが、
今はライダー兼ライターが主流になっています。

というのも、今から20〜15年ぐらい前までは、
誌面を飾るライダーといえば現役のレーシングライダーがほとんどで、
バイクに乗るのが本業なので、
自分の感じたことを的確に文章にする、
なんて技量はほとんど持ち合わせていませんでしたし、
編集側の方もそこまで求めていませんでした。

ですから、当時はそのページを担当する編集者の他に、何人かの編集部員や我々ライターが同行して、
走行後にライダーからインプレを聞き、原稿にまとめるのが普通でした。

また、その頃のロードレース界では、
契約金や賞金で食っていけるライダーは、全クラスを通しても10人いるかいないかで、
それ以外のライダーはマシンから遠征費まですべて自腹、が当たり前でしたから、
「順位は常に1ケタ、時々表彰台にも乗る」というレベルのライダーでも、
声をかければ日当稼ぎに結構乗ってくれたんですね。

私が仕事をし始めた80年代前半のオートバイ誌では、
荘利光(元スズキワークス)、鈴木忠男(元ヤマハモトクロスワークス)、故・真田哲道(元モリワキ)、
石井重行(元ヤマハ社員)、五味渕安彦(GP500ライダー)、齊藤仁(GP500ライダー)、
故・草間郁夫(GP500ライダー)、坂田典聡(元ヨシムラ)、藤原義彦(後のヤマハワークス)といった面々をレギュラーに、

大きな取材やイベント時には、河崎裕之(スズキ/ヤマハワークス)、清原明彦(カワサキワークス)、
故・一ノ瀬憲明(ホンダワークス)、伊藤巧(スズキワークス)、平忠彦(後のヤマハワークス)、
水谷勝(スズキワークス)、宮城光(モリワキ)、宮本力(ヨシムラ)、故・大島正(ビート)、
小林大(ホンダワークス)などなど、
そうそうたるメンバーが誌面を賑わしてくれました。

「懐かしい!」と思われる方も、結構いるのではないでしょうか?
ちなみに、カッコ内は私の記憶している当時の肩書きです。


今はライダー兼ライターが主流です

ところが、90年代に入ると、そういったゲスト的なライダーの登場機会がめっきり減り、
代わって、走れて原稿も書ける、ライダー兼ライターが増えて来ました。

その理由にはいろいろありますが、
1)ロードレースブームが去って、読者の多くがレーシングライダーに対して憧れを抱かなくなった、
2)ロードレースブームの影響でそこそこ乗れて書ける人間が増えた、
3)ある程度のギャラをくれたりマシンを出してくれるチームが増えて、
  贅沢言わなければ何とか食っていける中流レーサーが増えた。
4)編集部側も、乗って書ける人間の方が手間とコストがかからない。
といったところが、要因ではないかと推測しています。

もちろん、現役でレースを走っているインプレライダーも沢山いますが、
全日本選手権シリーズを追いかけるトップライダーが登場する機会は明らかに減り、
雑誌インプレッションを専業としているライダーが増えて来ました。

大抵はかつてレースをやっていた人ですが、
そのレベルは、全日本を転戦していた人から地方選手権止まりの人まで、
ライセンスも、国際A級からノービスまでさまざまです。

ちゃんと乗って、しっかりレポートできて、それなりに見栄えがすれば、
経歴にはあまりこだわらなくなってきました。
そういった意味では、この業界も熟成されて来たのかもしれません。


どっちを向いてレポートするか、それが永遠の課題です

私もその例に漏れず、全日本ジュニアクラス(後の国内A級)のTT−F3を走っていた86年頃から、
ちらほらとインプレを依頼されるようになり、
90年代に入ってからは、インプレライダーの代替時期に重なったこともあって、
逆輸入車から外車、ネイキッド、アメリカンまで、ずいぶん乗らせて貰い、
ニューモデル発表会にもずいぶん行きました。

特にアメリカンに関しては、体格が良かったこともあって需要が高く、
一時期は国産からハーレーまですべてのモデルに試乗していました。

インプレを始めた当初は、現役でレースを走っていた自負もありましたし、
「超高速コーナーでこんな挙動が出る」とか、
「180km/hを越えると切り返しが重い」とか
「タイヤが滑り始める感覚がどうのこうの」とか、
ずいぶん気張ってレポートしていましたが、
その後、アメリカンの試乗を重ねるうちに、
今までの自分のインプレに疑問を覚えるようになりました。

例えばアメリカンのハンドリングですが、
昔はタイトターンでハンドルがインに切れ込むクセが強く、
その辺がひとつの判断基準にもなっていたのですが、

ここ10年ぐらいで、どのモデルもそのクセを解消して来ており、
特別扱いにくいモデルはなくなりました。
乗り心地も、モデルによって良い悪いがありますが、
ことアメリカンに関しては、「乗り心地が悪い=ダメなバイク」とは言えません。
少なくとも「こりゃ危なくって乗れね〜や」なんてモデルは皆無です。

ネイキッドや逆輸入のビッグマシンにしても同じで、
バイクブーム、レースブームの頃に一気に底上げされ、
その後も着実な進化を遂げて来た今のバイクは、
少なくとも、市街地や高速道路における一般的な走りの中で、
ボロを出すほどハンパな造りはされていません。

サーキットに持ち込んで全開で攻めると、
何らかの欠点を露呈することはありますが、
それにしても、昔のように真っ直ぐ走らないとか、止まらないといった、
命の危険を感じるようなことはありません。

それ以前に、300km/h近いスピードからフルブレーキングしたり、
5速、6速全開でコーナーを抜けたりするようなシーンは、一般公道では皆無で、
そこでほんの些細な欠点を露呈したところで、
ユーザーレベルではまったく関係のないことです。

しかし、
そのマシンが限界近くで露呈する欠点や特性を見つけられることは、
ライダー自身のテクニックやセンサー能力の証明にもなりますから、
ともすると、そちらの方に傾倒したインプレになりがちです。

雑誌にとってお客様は読者ですから、
読者にとって利益のある、分かりやすいインプレを書くのが本来の形ですが、

かつてワークスライダーだったとか、シリーズチャンピオンを取っているといった、
明解な後ろ盾のないインプレッションライダーにとっては、
直接仕事を発注して来る編集部員に対して、
あるいはメーカーの広報部員や技術者に対して、
「自分はテクニックがあって、的確にレポートできるライダーである」ことを、
印象づけることも、今後食いぶちを確保するためには重要な要素になって来ます。

当たり障りのないインプレになってしまうのを覚悟の上で、
あくまでも読者の視点に立ってレポートするか、
先々のことも考えて、編集部やメーカーも視野に入れてインプレするか、
結構悩みどころなのです。


ゼファーがあんなに売れるとは誰も思いませんでした

余談になりますが、比較的最近のモデルで面白い現象になったのがゼファーです。
乗られた方も多いと思いますが、レーサーレプリカブームの終盤に発売されたゼファーは、
取り立てて特徴のないごくオーソドックスなスタイルで、
エンジンもビックリするほど遅いバイクでした。

各雑誌とも「カワサキらしいシンプルな・・・・」とか「非常に扱いやすく・・・・」といった表現で、
無理矢理ほめてはいたものの、「これは売れる!」と思ったライダーや編集部員は、
おそらくほとんどいなかったはずです。

ところが、蓋を開けてみると爆発的なヒットモデルとなり、
「ネイキッド」という新しい言葉まで作り出してしまいました。
そうなると雑誌屋も無視できず、
手の平を返したように特集を組んで「こいつはスゴイ!」となるわけです。

自分で言うのも何ですが、雑誌屋って結構いい加減なもんです。
ただ、私自身、今でもゼファーは面白みのまったくないバイクだと思っています。